ムサシ今昔
さかのぼること百七十年(※1)、初代石田徳兵衛は和家具屋「丸徳武蔵屋」を芝に創業。
時まさに十二代将軍徳川家慶の治世、ペリー来航まで十年を待つ開国前夜であった。
その後、明治初年、竹河岸向かいに移転(※2)。ここは京橋川の河岸のひとつで、往時、川の両岸には家具屋が軒を連ねていた。
中でも「丸徳武蔵屋」では、光琳蒔絵や象嵌細工などの贅をこらした桐箪笥や鏡台などを手がけ、大家の嫁入り道具として、また料亭や役者などの御用達であった。
最盛期は十三軒を数えるも、時代と共に両岸の家具屋は一軒また一軒と店を閉じ、震災後七軒に減り「丸徳武蔵屋」も焼失、四代目皓造の代に現在の地に移った。
そして、戦後はついに「丸徳武蔵屋」ただ一軒となった。
生活様式の欧米化はクローゼットの時代をもたらし、和家具屋としての先行きを案じた 現社長 六代目善計は、創業百五十年の節目に、五代目元昭とともに英断を下した。
江戸時代から続くこの店を「ギャラリームサシ」として新生させることを。
屋号である「ムサシ」の名を冠し、平成八年開廊、今年で二十年目を迎える。
六代に亘るこの家の来し方をふり返るとき、幕末から文明開化、大震災や戦争など、まさに激流の中で舵をきる日々もあったのかと思い至る。そして、和家具屋から出発し、ギャラリーを生業として今ここにあることは“新し物好き”の銀座気質にも通じていたのかと、進取の気性に導かれたこの家の辿り路を、思う。
※1 一八四五年(弘化二年)
※2 現在の銀座一丁目 元ホテル西洋のあたり
平成二十七年二月 記
ギャラリー吉豊
ギャラリームサシの姉妹画廊であるギャラリー吉豊は、2010年7月14日(水)をもちまして閉廊致しました。 1年半の短いあいだではありましたが、皆様のご厚情に心よりの御礼を申し上げます。 今後はギャラリームサシでの活動に統合致しますのでよろしくお願い致します。